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zekku

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眠りによせて[荒巻荒]

夜中に起きた巻ちゃんのおはなし
(さむ、)

背骨に浸み込んだ夜気に、不意に意識が浮上する。
ぶるりと身震いして背筋を伸ばそうとする体に反発してぎゅ、と肩を縮めた。曲げっぱなしにしていた膝を伸ばせば、ぴしり、小さく間接が伸びる音。蹴り出した踵が滑るシーツの表面も冷たい。冴え冴えとした夜の冷たさにすっかり覆われたシーツが、伸ばした足の体表面から温かさを吸い取って逃がしてしまいそうで、慌ててもう一度、先程よりも小さく体を折り畳み、気怠くて優しい熱を内へ留めようと努めた。
自分の腹の方に折り畳んだ両膝に、その足を押し退けようとする温かい質量を感じて、そこで漸く、未覚醒の脳味噌が隣で眠っている人物の存在を思い出すに至る。

足先から逃げた微睡みの分だけ遠のいた睡魔を捕まえようと、ずり落ちていたタオルケットを引き上げてから、目の前で長く息を吐く男を見た。
暗闇の中でぼやりと仄白く浮き上がって見える肌の部分で、同衾者がこちらを向いて寝ているらしい事がかろうじてわかる。表情までは良く見えないとは言え、ほどほど暗がりに溶け混じるような濃い陰影の中でも、妙に顔全体がぼけて白っぽく見えるのはこいつの顔の凹凸が少ない造作の為だろうか。それを面と向かって言ったりすれば起伏の少ない顔面の表情筋を目一杯使って不快を伝えてくるのだろうけども。

のったりした白い顔からすんなり伸びた、実にスジっぽい鶏がらみたいな首の更に下、黒いスウェットを一枚纏っただけの肋骨の辺りは、骨組みに皮だけべろりと貼りました、と言われてもなるほどそうかと頷く位、がらんどうにすいているのを知っている。
その隙間だらけの身と骨の合間から、かんと冷やされた空気が滑り込んで来るような気がしたので、曲げた足をもう一度緩く伸ばし鶏がらを雑に引っ張って手前に寄せた。男が起きる気配も無く口を開けて寝息を立てているのに気を良くして、隙間を接ぐように抱き込んだら鎖骨に肩の出っ張った骨が引っ掛かって地味に痛い。ごりごりする。しかし体勢を変えた所でこの男がどこもかしこもごりごりして硬い事は知っているので、そのまま重たい頭を首元に迎え入れ、真っ黒な髪の毛に顎を押し当てて目を瞑る事にした。
抱き心地の悪さはお互い様だし、それ以上にもう今更だ。

何とは無しにすんすんと鼻を動かしてみる。生憎人間標準レベルの嗅覚しか持ち合わせていない自分にはシャンプーの匂いとこの男の体臭を感じるのが精々だ。そもそもこいつが言う「ニオイ」が果たして自分の認識する所の「匂い」と同じ種類のものであるのかは良く分からないのだけれど。
まるんとした形の頭の頂辺を指でつつき回したい衝動を押し留め、白い旋毛がわりに規則正しく渦を巻いているのを眺めた辺りで、ゆるゆると足の爪先から熱が溶け出しているのを感じた。

溶けた熱のお陰で、もうシーツの冷たさは感じない。指先も隙間無く抱き込んだ温かな熱もぼやりと膨らんで境界をふやかし、じわじわ、ゆるゆる溶け広がっていく。溶け混じった熱が、浸み込んだ刺し入る様な夜気を追い出し、追い出し、もう一度瞼を持ち上げる頃には、うすぼんやりした白い頬も、シャンプーの匂いもゆっくり遠退いていく。
眼球の後ろからじわりと熱くなって、鼻の奥がつんとして、そのまま、くありと大きく空気を飲む。肺を満たして入れ替わり吐き出した空気は、もう柔らかで重たい微睡みだった。

「オヤスミ」

もうさむくない。
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