いやだいやだいやだいやだ。
いやだ、こわい、いたい、いた、
ぞろり、内側から凝る心地がした。
じわじわと己を蝕んで、喰ろうていく。
ずりゅり。
ずりゅり。
引き擦り込まれて奈落。
否、真に奈落なのではない。
此れは己だ。
己が内に秘めし闇なのだ。
いやだこわい来るないやだ
「厭だ」
虚空に向けて放たれた言葉は掠れて確りとした形を成さない。
小さく放たれた拒絶は、恐らく届こうが届くまいが無意味なのである。
最初から受け入れられない拒絶。
「いやだ」
白い指。
血色があまり好くないそれは己の其れと違わぬというのに。
己のとは確かに違うものを内包して、ぞろり、首を這った。
「い、や」
ぎちり、微かに湿りを帯びた皮膚は必要以上の摩擦を持ち、安易には滑らない。
皮膚の表面が攣る。
骨ばった指が薄い皮膚の内に在る太い血管を圧迫する。
「い、!」
絡んだ指に押し潰される器官。
気道が狭まる。
くうきが、いきが、いきが、
どろり、凝る。
長い睫毛に縁取られた、己と同じ筈の眼が。
同じ筈。
筈、なのに。
嗚呼、僕はそんな表情はできないよ。
つ、と細められた眼。
捕食者のそれ。
限りなく淫蕩で凶悪で愉悦に満ちたそれ。
己とは、相容れないもの、だ
「う、ぐ」
米神がぎりぎり痛む。
酸素欠乏の危険信号。
ちかちかと目の前に星が飛ぶ。
景色が揺らぐ。
否、景色と呼べるものなど無かった。
目の前に広がるのは唯、どこまでも暗い闇。
どろりと重い闇と、その闇に映える白い髪。
白い体躯。
どろどろと濁った、己を映す瞳。
にやり、笑ったその容貌が揺らぐ。
揺らぐ。
視界が白く染まる。
「っは、ゲホッ」
ひゅう。
締められていた喉が開放され、一気に流れてくる空気。
急速な転換に体が付いて行けず、咳き込む。
目頭が熱くなる。
いやだ、いやだ。
みっともない。
じわり。
意思に反して眼の端は涙を溢した。
「いいザマだなァ?」
どろどろ、どろどろ。
愉悦に満ちた声音が鼓膜に絡む。
耳に流れ込む音ではなくて、どろりと這い回るような音。
嗚呼、嗚呼、気持ち悪い。
「なん、で」
如何して。
何でこんなこと、するの。
「なんで、だァ?」
がり。
「っ!」
耳を食まれたのだと気付く。
呼気を含んだ声が先刻よりも明瞭に、それでいて湿り気を増して響いた。
「あいしているから」
大嘘吐き。