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zekku

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珠玉と成る[8親子/DDFF]

スコールくんのお父さん孝行
今度遊びに来い、と言っていたのはあの男。
からっぽの部屋の持ち主も、あの男。
(仕事、だろうな)
小さく息を吐いて、部屋に入る。
エスタの大統領だ。そうそう暇も無かろう。
(来いって言ったの、あんただろ)
呼びつけておいての、待ちぼうけ。
それほど退屈なものは無くて、こんなことだったらこちらも仕事だと言って断ればよかったと思う。
仕事があったのは事実である。
SeeDは忙しい。
その上指揮官ともなれば、休みなんて無いに等しいのだ。
正直最初は断るつもりで居た。
だが、それを聞きつけたキスティスが、許さなかった。
「行ってあげなさいよ、仕事なら代わるから」
たまには親子水入らずで、ね?
と、半ば強引に押し出されて、今に至るわけだ。
さて、どうしたものか。
ただ待っているだけというのも退屈。
なにか、することは無いだろうか。
部屋を見回しても、片付ける必要がありそうな場所は無い。
あの男の性格からして、部屋は汚いだろうと予測していたが、そうでもないようだった。
いや、忙しくて部屋に寄り付かないだけか。
なんとも生活感の無い部屋だと、思った。
それは彼がこの部屋に来る頻度の低さを表していて、つくづく忙しい男なのだと思う。
思った後に、可笑しくなった。
(大統領、か)
似合わないことこの上ない、と思う。
ガルバディアやそのほかの国の、いかにも政治家然とした大統領たちを思い浮かべ、そしてこの部屋の持ち主を思い浮かべる。
本当に、似合わない。
大統領としての彼は本当に似合わない。
だがそれ以上に、俺の父親としての彼は、もっと似合わない。
「あー、もうこんな時間かよー!」
時計を見る。
時刻はもう、夜9時。
「急いだ方がいいんじゃないかね、ラグナ君」
待たせてるんだろ、とキロスが言う。
それをわかってるんなら少しくらい仕事減らしてくれたっていいのに、とラグナは思う。
「絶対怒ったよな!ぜっったい口利いてくれなさそう!」
「彼だってそこまで心が狭いわけじゃないだろ?」
「いーや!心が狭いわけじゃねーけど、すぐ機嫌悪くなるんだって!」
彼を呼んだのは俺。
当初の予定では、4時には仕事が終わっている予定だった。
連絡は入れたとはいえ、5時間遅れでは彼でなくとも怒る。
「ま、がんばりたまえ」
「おう!」
大慌てで荷物を抱えて、部屋を出る。
締め出されなきゃいいけど、なんてネガティブな考えは頭を振って打ち消した。
「スコールー!!」
自室の部屋を開けるなり、大声で叫ぶ。
待たせてごめん、と、逢いたかった、の意を込めて。
「・・・あり?」
ふわり、いいにおいが、する・・・?
「スコール?」
「・・ああ、ラグナ、おかえり」
予想に反して、穏やかなスコールの声。
そしてその声は、部屋の奥から聞こえる。
スコールの声といいにおいの方向へそろそろと歩み寄れば、そこはキッチン。
「・・・・へ?」
思わず漏れる情け無い声。
だがそれも仕方ないというものだ。
クールで無口で無愛想な(でもホントは優しいんだよな~)息子が。
「・・料、理?」
「丁度良かったな、そろそろできる」
こともなげに言うスコールに、ラグナは幾度か目を擦り、これは一体何の夢かと思う。
「え・・?なんで?どういう風の吹き回し?」
「アンタ、どうせ外食ばかりでろくなモン食べて無いんだろ」
たまたま、暇だったからだ、と、たまたまの部分を強調するスコールがなんとも可愛らしく、同時にひどく嬉しくて、ラグナは自身の目尻が下がっているだろうことを認識する。
「すこーるぅぅ~!」
「っ!・・危ないだろ!」
思わず鍋をかき回す彼の腰に腕を回して、その細さに驚いて。
「お前こそ、ちゃんと食ってるのかよ~?」
「人並みに」
きっと彼も大して食べていないのだろうと思った。
「ほら、食うぞ」
「おう!ありがとな!」
白い食器に盛られたのは、温かなシチュー。
その手際のよさに、感心とちょっとの寂しさ。
1人で生きてきた証の断片を見せ付けられたようで、どうしようもない無力感が襲った。
「・・・ごめん、な」
「何がだ?仕事なら仕方ないだろ」
「いや、そうじゃなくて・・でも、うん、いいや」
「?へんなやつ」
それでも、少しだけ胡椒の効いたシチューと滅多に見ることの出来ない息子の優しさで満たされて。
こんな嬉しいことも無い、と思ったりして。
「ありがとな」
「別に・・気まぐれだ」
「でも、ありがとう」
たまたま。
そう、たまたまだ。
スコールは心の中で呟いて、白い液体をすする。
親子が何かはよく判らないけど、親子らしいことをしてみたかったなんて、多分一生言わない。
でも、こんなのも、悪くない。
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