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しろいおれ[ティキラビ/Dグレ]

しろいティッキーのはなし


「Hola、ご機嫌麗しゅう、ね、今の俺ちょっとキマってた?」
不躾な土足はそのままに紳士然とした長身を小さく屈めて男は笑う。
場にそぐわない男の登場にさして驚くでもなく通算11回目を算えた深夜の来訪者を一瞥して、ラビは再び手元の活字を追う。
「あれ無視?無視ですか?おーい眼帯くん、」
男の通った鼻筋よりも、今はインクで綴られた史実を飲み込む事の方が余程大切だからだ。
「なー、ちょっと、ねーってば」
床一面に散らばる資料を勝手に退けて座る場所を探す男を咎めるのも面倒で、第一、声を掛けてしまったらこれ幸いと言わんばかりに騒ぎ立てるだろうし、目の端に入れるに留める。
尚も男の存在していますアピールを黙殺すれば、不意に首筋に擽ったさを覚えて、それでも頑に振り向かないままに小さく溜息を吐いた。
「重てぇさ」
「うん」
「邪魔」
「うん」
「・・・」
「うん」
首筋に当たったのは男の癖の強い髪の毛。
と硬い布地の感触。
気障で暑苦しい格好は早々に断念したらしい。
「・・・で?」
言外に何をしにきたのかと問えば、ティキはと小さく呻いてラビの肩甲骨の間に鼻先を押し付けて。
「野郎にンなことされたって鳥肌モンさ」
「こんな美形捕まえて、酷い」
男の骨ばって指の腹がざらついた手に後方から抱きこまれて、いつから自分はこの手を跳ね除けなくなったのだろう。
諦め半分。
呆れ半分。
懐柔は認めたくないので目を瞑る。
「泣いてるかなーって、」
「あ?」
「少年が?」
男の体は酷く熱っぽかった。
基本的に小さい動物の方が熱量が高いのが常なのだけれども、きっと己とこの男の熱量の差は単純に発熱する筋肉量に起因しているので甚だ腹立たしい。
実に腹立たしい。
そもそも泣いているとはなんだ。
人の事を馬鹿にするのも大概にしろ。
事実涙なんて一滴も出ていないのに全くこの男は何を言っているのだろう。
「泣いてねぇよ」
「知ってるよ、でも泣いてんだろ?」
学の無い男だが人語まで解さないとは。
ああ本当に性質が悪い。
ざらついた指が乾いた頬を辿って、下へ。
「今日は白だから」
だから、ねえ、少年。
頬を掠めた爪先が悪戯に瘡蓋を引っ掻いて、ちりりと小さな痛みを覚えて。
戯れのままの瑣末な痛み。
「俺は泣き止めっては言わないよ」
爪の間に固まった細胞片をこびり付けたまま、指は真ッ更な包帯へと。
包帯。
手首にきつく巻かれたそれを套ねてまま撫でた。
リナリーが巻いてくれたその包帯はきつくて、でもそれには彼女の込めた心配と愛情がひしひしと滲んでいるから、わざわざ解いて巻き直す事はしなかった。
心配したんだからね、と任務帰りの自分を労ってくれた優しい優しい少女。
優しくて美しくて気丈でとても弱くて強い少女だ。
きりきり、きりきり。
きりきりと輾んで痛むのは、怪我を追った腕なのか、はてさて、それとも。
「んなに痛むんなら、いっそ、止めてあげようか」
低くて甘い声。
「今日は白じゃなかったんさ?」
「白だけど、ちょっとイイカモって思っちゃった、少年を殺してずっと横に置いとくの」
「腐るだろ」
「腐ってもきっと綺麗だよ」
「ああ、でも」
態とらしく演技がかった声を、それこそ態とらしくピアスを指に引っ掛けながらというサービス付きで吹き込んで言葉を繋ぐ。
どろり。
部屋の空気が渾り凝って嫌な予感。
「このキレーな緑が濁るのは嫌だな、勿体無い」
食べちゃいたい。
随分と物騒な物言いだが今に始まったことでもない。
この男ならばきっと本当にやりかねない。バラして口に含んだ後に笑いながら不味いと吐き出すのだろう。
「なーんて、う・そ」
「・・あっそ」
盛大に茶化しておきながらもその金の眸は死んでいない。
未だ引き摺る獰猛な影を香わせながらティキは笑いを舌先に乗せ。
「壊れた玩具にゃ興味ないんだ、俺」
所詮はこの男の気紛れに翫ばれているだけなのだ。
この気紛れが何時まで続くのやら、こいつは好物を最期に残して食べるタイプなのだろう。
体重を後方へ移動させ、ゆるり、烟草の匂いが濃くなって耳障りな詰めた笑い声が上から降ってきた。
「泣くほど痛かったら、言ってよ」
俺が全部食べちゃうからさ!
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