僕はこの感覚を確かに。
確かに、知ってる。
のに。
もやもや、ぐるぐる、わだかまり、滓みたいに深く沈殿して、凝った、なにかが、渦巻いている。
でもそれがなんなのかはよくわからなくて、滓が溜まった重たい心臓を引きずったままで。
この頃、たまに、夢を見る。
普段は訓練で疲れ果てているから、夢も見ないのに。
夢の内容は全く思い出せないのだけれど、誰かが微笑んでいる夢。
僕の絡まりやすい髪をするすると滑る指とか、
布越しに確かに温かい手だとか、
脳髄に染み入る低くて優しい響きを持つ声とか、
(・・深い、)(ビィドロのような、勿忘草色)
要素は幾らでも思い出せるのに、それは像を結ばず霧散するだけで、結局誰なのかはわからない。
目が覚めても、もやもやした感じが残るだけで、それだけの夢。
(でも、)
とぷん、小さな音を立てて、心の奥に沈んだ滓が、舞い上がって、跳ねる感覚。
リフレイン。
なにかが、リフレイン。
(たいちょう、?)
声に出さずに口の形だけでなぞる。
溜まった滓がとぷん、と波紋を広げたけど、またぐるぐる下に積もった。
名前を聞く度にちりりと微かに引っ掛かる。
引っ掛かるのに、それ以上は何も記憶の淵に浮かんでは来ない。
(嗚呼、泣けもしない)
ケイトはひどい人だったらしいよ、と言う。
とても強い人だったらしいと誰かが言った。
任務遂行に苦心する冷酷無比な戦士、なるほど、0組みたいに特殊なクラスの隊長にうってつけではないか。
そして彼が戦果をあげて亡くなったのであれば、それだけだ。
ちりり。
じょきじょきに切り刻まれた断片が時折ちゃぷ、ちゃぷ、と心を揺らしてぐるぐる、気持ちのわるい、居心地の悪さを覚えさせるのだけれど、どうして僕がそう思うのかもわからないし、第一もうその隊長さんを思い出すことは絶対に無いのだ。
なのに、どうして、こんなにも。
(・・クラサメ、隊長)
どうしてこんなに、あんたの名前が、僕を揺らすんだろう。
(ぐるぐると、飲み干した紅茶の下に沈む黒ずみみたいに、積もって)