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zekku

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眩暈、後に[クラA]

隊長は顔が良いから大体何しても釈される話
ぼんやり。
まさにそんな言葉がぴたりとはまるような様子で、エースは自分の指先を眺める。
ああ、なんて生白くて細い指だ。
我ながらその脆弱で頼りない様に嫌気がさす。
左手の薬指の爪の回りがささくれ立っていたので、引っ張って剥いたら、ぴっと痛みが走った。
(これは・・お風呂に入ったらシャンプーが染みるやつだ)
じんわり、流れるでもなく滲んでいく赤に、これは絆創膏を貼るまでも無いか、いやその前に持ってないし。
そういえば前にデュースがくれた絆創膏がチョコボ柄だったなぁ、さすがデュース。
取り留めの無いことをさして深く考えもせずにぼやぼやと連想していたら、いつの間にかぴりぴりした痛みはもう感じなくなっていた。
きっと忘れた頃に引っ掛けたり水で塗らしたりして痛くなるんだろう。
嫌だなぁ。
コツン、右肘に何かが当たる感触があって、ふと、思考が浮上する。
「あ、悪い」
目だけを動かして確認すると、マキナがうっかり取り落としたシャーペンだったようだ。
しゃかしゃかと忙しなくペンを走らせて隊長の文言を書き留めている。
真面目ちゃんめ。
マキナの相変わらず元気良く一方向に向かってぴょんぴょん跳ねている毛先を見て、これに時間をかけるのだったらきっとあと10分は長くベッドの中でまどろんでいられるんだろうな、ご愁傷様、と勝手に哀れんでから、教室内を一瞥する。
ナインは長身をかくりかくりと揺らして夢の中。
ひそひそと耳に届くのはきっとシンクかケイトの声だ。
午後の柔らかな陽光が差し込んで埃が白く舞っているおかげで、教室内は酷く眩しくぼんやりとしていた。
最も、思考事態ぼんやりしているので、視界だってもちろんぼんやりしていて当たり前なのだけど。
「・・以上だ。」
朗々と澱みなく講義を行っていた隊長の声が途切れる。
あれ、もう終わりの時間だっけ、早いな。
「では次回までに回復魔法についてのレポートを各自提出すること」
最初から最後まで顔色一つ変えずに、といっても途中はよく見てなかったけど、隊長はそう締めくくって、教室を後にした。
今日の授業はこれでおしまいだったっけ、ああ、晩ご飯何食べよう。
「ご馳走様でした」
ふわふわ卵のオムライスを平らげて、スプーンを置く。
一緒に来たエイトはもうとっくにチャーハンを食べ終わっていて、鍛錬に行く、と行って先に帰ってしまった。
少し遅い夕食の時間になってしまっていたから、リフレにももう他に人は居なかった。
魔方陣を通って人気の少ない廊下を歩く。
ひやりと乾いた空気がみちみちていて、夜の魔導院もなかなか好きだった。
クリスタリウムで借りてきたレポートのための重たい本を小脇に抱え、少しだけ靴音高く歩いたりしてみながら、寮のある棟の廊下を過ぎる。
レポートは明日やるとして、今日はもうお風呂に入って寝たいな。
「エース」
静かで、少し掠れたテノール。
わざとすぐには振り向かずに、少しだけ歩く速度を落とした。
「・・エース」
肩に手が掛かる。
強い力と、少し苛立った声音。
漸く振り向いて、笑ったら、眉根に皺を寄せられてしまった。
「どうかしたのか、隊長?」
「・・・いや」
肩に掛けた手を降ろして、隊長は小さく溜息を吐く。
「夕食はとったのか」
「今さっき」
「ならわたしの部屋に来い」
「なんでだ?」
はあ。
さっきよりも大仰に、今度は目を伏せるモーション付きで溜息を吐いて、腕を組む隊長。
あまりよろしくない方向ではあるが、その能面のような顔に感情を滲ませたことに少しだけ気分を良くして、エースはまた小さく笑う。
「今日の授業、上の空だっただろう」
「・・・お説教?」
「も、ある」
どうせそんなものはきっと口実なのだろう。
ふうん、と言って、それ以上は特に聞かずに、エースは大人しくクラサメに従う。
これ以上その機嫌を損ねるのは得策ではないことがわかっていたから。
「で?」
「・・・何が?」
部屋に入るなり、壁に両腕を縫い止められ、射る様な翠の視線がじくじくと痛い。
隊長は力が強いので少しくらい加減してくれたっていいと思う。
「私の授業は上の空で、何を考えていたんだ?」
「別に、何も」
強いて言うなら、ささくれの事くらい。
「マキナは」
「え?」
「マキナを見ていただろう」
ああ、こわい、こわい。
瞳の温度がぐっと下がっている、これは結構怒っている時の隊長だ。
隊長の瞳が近くなる。
青味がかった髪が揺れる。
マスクをしている隊長は、こわい。
「・・マキナがシャーペン落としてただけだよ」
「ほう?」
嫉妬深い男は嫌われるんだよ隊長、知ってた?
ちりり、指先に痛みが走る。
握りこまれた手の中で、隊長のざらざらした手袋がきっと例のささくれに引っかかったに違いない。
「エース」
キン、と甲高い金属音を立てて、隊長のマスクが床に転がる。
ああ。
ひきつれのように走る火傷の痕が露になっても、それでも、隊長の顔は恐ろしく整っている。
その恐ろしく造作の整った顔が、薄い唇が近づいて来て、自身のそれを食むのを感じた。
薄く目を開けたら、目を開けた気配を察知したのか、ぴくりと目の前の瞼が動く。
「くらさめたいちょう」
口付けられたままに呼んだ名はもごもごとくぐもって、縫い止められていた手の力が緩んで、指先をおずおずと緩慢な動作で隊長の薄桃色の火傷の痕に滑らせたら、隊長が静かに目を細める。
何をしてもかっこいいなんて卑怯だ。
通った鼻梁を辿っていた左手を引かれたと思ったら、指先にゆるやかにキスを落とされた。
眩暈がする。
気障だ。
間違いなく気障だ。
間違いなく痛いくらい気障な所作でも、なぜか板に付くあたり、イケメンってずるい。
掴まれたままの指はそのまま薄い唇を割って。
ちりり。
鋭い痛みに小さく眉を寄せたら、隊長がまた目を細めた。
悪趣味め。
鉄錆の味でもしたのだろうか。
ささくれを舌先で抉るように突付かれ、ちりり、ちりり、指先から鈍い痛みが伝播する。
「痛いよ、隊長」
小さく零した抗議の声に、整った顔の口の端が上がる。
・・変態。
痛がっている僕を見て喜ぶあたりただの変態だ。
ああ、でもどうして。
「エース」
濃い睫に縁取られた翠の瞳がゆるやかに細められる。猫みたい。いや、豹か。
「・・好きだ」
どうしてこんなにかっこいいんだろう。
(これは、ボディソープも染みちゃうなぁ・・)
眩暈、後に、陥落
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