例えばアンタだったらできた、とか、アンタならこう言う、とか、つまり、そういうこと。
要するには、後ろ向きな後悔。
ひやり。
頬をなぜる風は冷たい。
赤茶色の錆に覆われた、それでも鈍く光って威厳のようなものを放つ、墓碑代わりの剣を見遣る。
もしアンタならうまくできたのかな。
アンタなら、あの人を止めれた?
アンタなら、みんなとも打ち解けられた?
アンタなら、なぁ。
もしもなんて、そんなこと考えても無駄だ。
そう頭の片隅で思うのだけれど、悔恨の念は留めどなく、堰を切ったかのようにぼろぼろ溢れた。
ここに立っているべきなのは、きっと俺ではなくてアンタなのに。
なのに優しいアンタは、こんな俺一人さえ捨て置けず、挙句、自分と俺との選択で、自分を投げた。
「・・バカだろ、ホント」
感触なんて残ってはいないけど、最期の折、アンタにがしがしと乱雑に撫でられた後頭部に触れる。
いつもそうだった。
粗野で大雑把で、でもあったかくて優しいでかい手。
髪はぐちゃぐちゃになるし、ぐわんぐわん頭は揺れるから気持悪かったんだけど、その乱暴に頭を撫でる手が好きだった。
ぐるぐる、ぐるぐる。
思考が渦を巻いて、終着点が見えない螺旋へとぐるぐる、ぐるぐる。
過ぎ去ったものは、帰らない。
ただ、還るだけ。
なぁ、やってたんだぜ、なんでも屋。
今はデリバリーだけど。
あの時もらったあんたの誇りとか夢は、時々重すぎて放り出したくなるけど。
でも、重くて引きずりすぎて、少し軽くなったみたいだ。
なぁ、いつまで生きればいい?
あんたの分までって、いつまでだ?
あんた健康体だし元気だったから、普通に生きてたら80歳までは最低でも生きたろう。
これから60年も生きるのか、俺。
ああ、俺の寿命も計算に入れると、あと120年?
「生きるよ、なぁ、ザックス」
気が遠くなりそうだけど。
でもアンタが繋いでくれた命だから。
だから。
アンタはあっちでエアリスと仲良くしてろ。
どうぞお幸せに。
でも俺がそっちにいったらその時は、また前みたいに乱暴に頭をなでてくれると嬉しいな。
じゃりり。
足元の土を踏み鳴らす。
ひやり、頬を撫ぜる風は冷たい。
冷たいけども、なんだか、充足していくような、そんな感覚。
この先何年経っても多分、この後悔が消えることは無いんだろう。
たくさんの後悔と懺悔に埋もれながらも、でも、生きるから。
この命が擦り切れるギリギリまで真っ当に使い切るから。
アンタはあっちで待っててくれ。
じゃりり。
踏み締めた小石交じりの土がまた音を立てた。