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zekku

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やさしい人[火黄]

おおばかものめ。
やさしいひと。
君はそうやって、なるたけ俺を傷付けないような言葉を、無い頭で考えて選んで吐くんでしょう。
やさしくてやさしくて、とびきり、おろかだ。
(そんなんだから、俺みたいのに、付け入られるのに)
優しいあんたを困らせないように、なんて。
そんな殊勝な心がけが出来ていたのは最初のうちだけだった。
好敵手として、もしくは友人として。
メールして、喋って、バスケして、たまにご飯したりしちゃって。
親しくなればなるほどにひりつくような喉の渇きを覚えて、ああ、俺はこの人が欲しいのだなあと、ぐずぐずに鈍る頭の中でぼんやりと自覚した。
ぼんやりとした自覚が明確になるのにあまり時間は掛からかった。
仕事帰り、もうとっぷりと辺りは日も暮れ、というよりもうむしろ深夜のこと。
シャワーは明日の朝に早起きして浴びよう、とベッドに身体を投げ出して、伸ばした指に触れる携帯。
受信箱はいつの間にか、黒子っちよりも火神の名前の方が多くなってた。
火神がキセキのみんなと違って、俺のどうでもいい日常報告メールに飽きもせず律儀にレスをくれる(一文一文は簡素で素っ気無いけど)所為だ。
「かがみ」
小さく声に出して名前をなぞる。
すとん、と臓腑に収まる感覚。
ああ、やっぱり、俺はこの人が好きなんだなあ、と、案外簡単に納得した。
男だろ、とか、まあ、色々思うところはあったのだけど、生憎俺も頭の良い方ではないし、モデルとして華やかな世界に身を置いているとまあその手の話もよく聞く。
というのはまあ言い訳と建前なのであって。
簡単に言ってしまうと俺にはそういう、つまり、なんというか、同性間のいわゆるそういう経験がもうすでにあったからである。
「好きだ、たぶん、すき」
一度声に出して形にしてしまうと、言葉というのは恐ろしいもので、元々バスケと仕事しか入ってないゆるっとした頭の中はまるで警鐘を鳴らすように火神で埋め尽くされた。
警鐘。
はやく、はやく、すぐにでも彼に受け入れられなかったら、喉が渇きすぎて苦しくて辛くて消えてしまうような、そんな非常警報だ。
警鐘を鳴らす反面、どこかぼんやりと、歴史の授業か国語で言っていたような気がする言霊の存在を意識したりして、声に出すというのはすごいことなんだなあって一人で納得した。
兎に角、箍が外れたように火神が占有し出した脳味噌は、熱に浮かされてぐずぐずだった。
相も変わらずどうでもいい日常報告メールをして、その返信すら待てず、2通連続で送ってしまった後に、馬鹿か、と一人ごちて。
黒子っちに会いに行くっていう名目でマジバに突撃してみたんだけど、ぐずぐずの脳味噌が妙なことを口走ってしまうのが恐ろしくて、目も合わせずに無視してしまったりして。
ああ、まったく、俺は馬鹿か、とまた反芻する。
堰を切ったように溢れた火神という単語が、いい加減、俺の大して堅くも無いし戸も立てられない口から零れ出しそうになった頃。
黒子っちと3人でマジバで駄弁った帰り、なんとなく、ストバスをしようということになった。
申し訳程度に切れ掛かった明かりが灯る夕暮れのコートでボールを拾い上げる火神を見ていたら、とうとうその軟弱な堰が決壊してしまったようで。
「好きだ。」と、勝手に言って勝手に泣いた俺を、火神は撥ね退けたりはしなかった。
「そうか」
小さく、呟いて、火神は目を伏せる。
その表情に侮蔑や嫌悪の色が無い事に安心して、その反面悲しくなった。
きっと、やさしいこのひとは、必死に考えてくれているのだ。
「ごめん、迷惑だったっしょ」
忘れて、と惨めに鼻を啜りながら言ったら、とても困った顔をされた。
そんな顔をされたいわけじゃないんだ、ごめんね。
みっともないという思いが頭の中をぐるぐるぐるぐる回って、一刻も早くこの場から消えたくて、顔を上げないようにしながら足元に転がっていたボールを拾う。
拾い上げた勢いで後ろ向いてコートから出ようとしたら、小さく名前を呼ばれてしまった。
ああ、このタイミングで呼ぶのかよ、駄目だよ、俺、今、そっち見れないのに。
「黄瀬」
「・・何スか」
「あのさ」
低い声。
きっとそれは碌でもない結論だろ?
聞きたくない、と言おうとした俺の耳に届いたのは、存外穏やかな声だった。
「その、俺も、嫌いじゃねーよ」
振り向いて見た顔がやっぱりとても困ったような顔をしていたから、本当に困っていたのだろう。
「火神っち、」
「たぶん、好きかも」
馬鹿だ。
火神は、ほんとうに馬鹿だ。
ずず、と鼻水が引っ込む。
きっとこの言葉は俺を傷付けないための嘘だから、駄目だ、駄目だと思うのに、その声を聴いた鼓膜が歓喜に震えて、膝ががくがくいってた。
優しい嘘なら要らないんだよ、そう言おうとしたけれど、辞めた。
例え同情でも嘘でも、俺を見てくれることが嬉しかったから。
馬鹿だな、そんな、優しいから。
俺みたいなのに好かれちゃうんだよ、火神。
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