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zekku

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優しくなんか無かったよ[火黄]

「やさしいひと」のつづき。
悪かねえなって、そう、思っただけなんだ。
それだけ。
友達の友達。
簡単に言えばそんな感じの関係だ。
いや、黒子の奴が知人ですって言ってたからもっと遠いのか?
ああ、あと、あれだ、多分、ライバル。そんだけ。
そんだけだったんだけど。
あれ?
どうやらその曖昧でもやもやした、名前も付けれない関係を上書き修正しなくてはならなくなってしまったらしい。
「かがみ」
猫みたいに琥珀色した目を細めて、黄瀬が小さく俺を呼ぶ。
そういやこいつモデルやってんだっけな。
長い睫毛がぼやりとした照明の下で妙にくっきり、頬の辺りに影を散らす。
細長い指が色素が薄くてやたら煌々とした髪を耳にかけた、それだけ。
それだけの仕草が嫌に堂に入っていて、ああ、さすがモデル、とえらく納得してしまった。
「ありがとう」
何に対しての謝辞だ、そりゃ。
意味の分からない謝辞を述べて、黄瀬は綺麗に笑う。
この笑い方をする時、こいつが碌でもない事を考えているだろう事は最近判ってきた。
「はぁ?」
「ね、キスしてよ」
俺がもう一度、はぁ?と聞き返す前に、するりと寄って来た猫にもう下唇を噛まれていた。
結局俺の都合なんてお構いなしなのだ、こいつは。
べろりと唇の表面を舐められて薄目を開ける。
嫌にぎらぎらと挑発的な表情の黄瀬と目が合った。
このやろう。
じとり。
いやな湿気だ。
そういえばまだ外は雨が降っているのか。
半分だけ開けたままになっていたベランダを見遣る。
皮膚に纏わり付くような湿気で板張りの床と素足がきゅ、と鳴った。
ああ、鬱陶しい。
鬱陶しい。
もう一度視界に黄瀬を入れると、擽ったそうに琥珀が揺れた。
べたべた。
絡む指先も煩わしい程の湿気。
それでもお構いなしに黄瀬は鼻先を摺り寄せて、すんと鳴らす。猫か。
「・・・ありがとう」
だから、何に対して言ってんだか、わかんねーよ。
「俺を、否定しないでくれて」
「は?」
悪戯な目元のままで、作った綺麗な笑顔のままで、低く呟かれた声は。
なんとも情けなく部屋の空気の溶けて、ぐずぐずに霧散する。
鼻梁の高い鼻を指で摘むと、じとりと睨まれた。おーこわ。
「そんなんじゃねえよ」
「はひ?」
悪かねえなって、そう、思っただけなんだ。
それだけ。
友達の友達でライバルで男で189センチでモデルで。
鬱陶しいキラキラ笑顔で馬鹿で犬で猫で、馬鹿で。
ぐしゅぐしゅに泣いて小さく好きだと呟かれたあのバスケットコートで、あの時に湧いたのは多分同情ではなかった。
「イイよ、おまえ」
悪かねえなって、俺の横で笑ってるお前、悪かねえなって。
そう思っちまったんだよ、まじな話。
ぼやりと考えていたら鼻を摘んでいた指に噛み付かれて。
そのまま指先に音を立ててキスをされた。
おーおー、お盛んなこって。
さらりと揺れる髪の毛も、しなりと指に馴染む。
ああ、参った。
「火神、・・好き」
真っ赤な舌が整然と並ぶ歯列からちらりと覗いて。
伏せられた琥珀ともう一度目が合ったときに、ああ、もう駄目なんだなぁと他人事のように考える。
もう駄目なんだ、きっと。
赤い舌をやわりと噛んで、薄い唇もがぶりと噛む。さっきのお返し。
ごつりとちょっと痛い音がしたのにも気に止めずに黄瀬を床に縫い止めて丸い頭を掴む。
悪くない、と思っただけだったのに。
ああ、もう。
「オマエじゃなきゃ駄目みてーだわ」
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