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zekku

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いと[赤炎/OP]

純情系にいちゃん










たった2文字、たったの、されど、でも、ううん、えっと。

(その2文字が簡単に言えたなら、苦労しない、のに)


「よお、来たか腹ペコ小僧」
「・・なんだよ、それ」

からからと快活に笑う男は、予想に違わぬ笑顔で俺を船に招き入れた。
仮にも俺は敵船の隊長格だというのに、警戒は微塵も無い。
本当にこんな男が四皇、とも思ったりするのだが、逆に四皇であるこの男にとっては俺など取るに足らないというだけなのかも知れないけど。
まぁなんにせよ、この男はもう20にもなる俺を相も変わらず餓鬼のように扱う。
それを少し不愉快に思う反面、どこか嫌じゃない自分が居るのも、少し変な感じ。

「また来たのかエース」
「お邪魔してます、迷惑か?」

シャンクスの後について甲板を歩いてたら、少し煩わしそうに髪を撫で付けていたベックマンが気付いて声を掛けてきた。

「別に構わん、どうせうちはいつでも宴なんだ」
「ありがとう」

少し皮肉混じり(というか多分シャンクスへのあてつけだ)で言われた台詞で、ああ、苦労してんのかなぁ、とか思ったりして。
そりゃあ苦労もするよなぁ、とか、シャンクスを見て思ったりする。

「飲んでくんだろ?」
「ああ」

ベックマンの言葉通り、この船の上はいつでも酒宴が開かれているように思う。
少なくとも俺が見たときはいつでも宴だった。
手渡された酒瓶を受け取って円から少し外れたところにあった荷物樽に腰を降ろせば、シャンクスは傍の柱に凭れた。

「んで?今日は何の用事だ?」
「いや、今日はなんもねえんだ」
「ほー」

きゅぽ、と小気味良い音がして、少し湿ったコルクが吹き飛ぶ。
どうせ手にした瓶はいつも空けてしまうのだ、拾いに行く必要も無いだろう。

「ここに来れば、飯に有りつけるしな」
「やっぱり腹ペコ小僧じゃねえか」

半分本当で、半分嘘。
俺の嘘に気付いているのかいないのか、からからと笑って、シャンクスがぐい、と酒を煽る。
思いっきり上を向いて煽るもんだから、筋張った喉が嚥下するのに合わせて大きく上下した。

どくり。

首の辺りが熱を持ったようで、ああ、もうアルコールが効いてきたのか、とか思ったり。
もちろん俺だっていっぱしに酒はたしなむから、ほんの2、3口のアルコールが効くなんてありえないことなのだけど。
だけどもアルコールの所為にしてしまいたいと思うのは、仮にも20まで生きてきた俺のプライドと常識に由縁していたり。

(だって、なぁ)

俺だって馬鹿じゃない。
人並みに常識だって、まぁ、あると思うし、自分のことがわからないほど餓鬼でもない。
だからこそ、是非とも見過ごしたい事実って奴はあるのだ。

「ほらよ、エース」

お腹を空かした(ということになっている)俺にシャンクスは仕方ねえなって顔して干し肉を投げて寄越す。
別にお腹を空かしているのは嘘じゃない。
ありがたく受け取って、乾いた肉の繊維を犬歯で引き千切って。
香辛料の風味がじんわり舌先に広がって、うめえなぁって思って、そんな俺を見ながらシャンクスはまた笑った。

「餌付けしてる気分だよ」

お前見てると、って笑う顔は、困ったように眉尻が下がってて、また首のあたりが熱くなって。

(その顔も、すき、かも)

どうかしてる。
いや、どうしてくれんだ本当に。

俺だって一応、今まで生きてきて普通に女の子引っ掛けたりとか、なんだり、ごにょごにょ、してきたのだ。
自分で言うのもなんだけどそれなりにモテたし。
そのそれなりにモテてた自分が、何が哀しくてこの中年オヤジの一挙手一投足に浮き足立たなければいけないのだ。

何が哀しくて、とか言ってみたけど、哀しいかな、もうそれが変えようもない事実だってことは明確だ。
いくら見過ごしたくても、どうしようも無いのだ。

(好き、だ)

適当に街で引っ掛けた可愛い女の子にはいくらでも言えたその2文字は、もう長らく封印されたまま。
いつもはすらすら動くお喋りな舌も、がちがちに錆びた歯車みたいにフリーズ。

なんでこんなに苦しいんだっけ、とか。
というかなんで俺こいつ好きなんだっけ、とか。
そもそも人を好きになるのは苦しいことなんだっけ、とか。

色んなことが頭に過ぎって浮かんでは消えるけども、今日も当たり障りの無い会話を酒で流して飲み込んで、俺は笑ってストライカーに乗り込むんだ。
アンタの横で酒を煽れなくなるのは嫌だから、もやもやも全部酒で流して、ばいばい。
ただの腹ペコ小僧のままで居れば、またこの船に来る口実になるから。

「なんだ、もう帰んのか」
「あんまり長居すんのも悪ぃし」

それも、半分嘘。
正確には、長居すると不味いのは俺の方。

「そうかぁ?うちの連中なら気にしねえけどなぁ」
「俺が気にすんだ、じゃあな、シャンクス」
「おー、また来いよ」

『すき』の2文字は、まだまだ当分、封印だ。



徐々に小さくなる後姿を目で追いながら、ベックマンは溜息を付いた。
その視線の先には、上機嫌で酒を煽るこの船の頭。

「アンタも大概、人が悪い」
「飯にありつけるから、だってよ」

からからと屈託なく笑う男がいっそ悪魔のようにさえ見える。

「判ってんだろうが、あまりからかうなよ」
「からかってねえ、俺ァ本気だ」

ぐいり、酒を煽って、でもなァ、と言葉を繋げる。

「わざわざ口実まで作っちゃって、バレバレなのに」
「判ってんなら、」
「あんだけ可愛いことされちゃ、悪戯の一つでもしたくなんだろ?」

へらり、笑う顔は、ああ、なんて悪そうな顔。
もう暫く、この男が折れてやる気は無いらしい。

(甘美な意図に絡め取られて、身動きさえ取れぬ哀れな子どもよ)



***
休止以前のサイトの拍手だったもの。
一人で赤くなったり緊張したりて悶々としてる思春期兄ちゃん、が何を考えてるかも全部わかっていながら一切何もせずに獲物が網に掛かるのをただ待っているお頭、を呆れたように眺めつつ、でも何もしない副船長と赤髪クルーたち














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