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zekku

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かいな[志々雄さんと宗次朗/るろ剣]

秋の夜長に。
両手で自身の肩を抱き、宗次郎は身を震わせる。
一遍の曇りも無い月は、完全無欠な、狂気だった。
頭の端をそんな思考が掠めた途端、心地よかった風が攻撃的に感じられて、きつく目を閉じる。
不意に煙草の匂いが強くなり、冷えて感覚の乏しくなった指先に暖かいものが触れた。
「・・志々雄さん?」
すっぽりと抱き込まれるような形で、宗次郎の身体は志々雄の腕の中に収まっていた。
一瞬びくりと身体を強張らせたものの、心地よい温かさに直ぐに弛緩する。
「あったかい・・」
煙草と、ちょっぴり枯れ草の匂い。
温かな体温に包まれて、頬を撫ぜる冷たい夜風も気にならない。
「風邪引くだろうが」
「あはは、そんなヤワじゃないですよー」
「寒いんならさっさと戸を閉めろ」
「寒いんで、もうちょっとこのままでいいですか?」
宗次郎がふふ、と笑って志々雄を仰ぎ見る。
志々雄は深く溜息を着いた後に、勝手にしろ、と言い捨てた。
「志々雄さん、あったか・・い」
ゆるゆると浮遊感を感じて、志々雄に身体を預けたまま宗次郎は目を閉じる。
上からなにか、咎めるような声が聞こえたが、もはや左から右へ抜けていくだけ。
頭のてっぺんに軽い重さと温かさを感じながら、宗次郎は静かに意識を手放した。
「・・・ったく・・」
軽く舌打ちして、自分の腕の中で眠りに落ちてしまった少年を見る。
酷く安心しきった表情で眠る姿を見ていると、叩き起こすことも出来ない。
とりあえず部屋の戸を閉めて夜気を追い出し、宗次郎を起こさないように背後の壁に凭れ掛かった。
秋の夜は長い。
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