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zekku

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オラトリオ[赤炎/OP]

お頭は欲しがり屋さん







するする、するする。
少々汗ばんで重たくなった髪を梳く。
人間の頭皮ってもんはとても皮膚が薄い上に体中のツボが集約しているので、ゆるり、指を滑らせる度に、腕の中の体がひくりと跳ねた。

嗚呼、嗚呼、

(欲しくて欲しくて堪らない)






久方ぶりの逢瀬は、前触れも無く訪れた。
といっても元々お互い海賊をやっている身であるから、前触れなんて有る方が珍しいのだ。
いつだって唐突。
求めた時に、手を伸ばすのだから。



言葉を交わすのもそこそこに若い肢体を貪って、灼熱に身を沈めて。
一頻り抱いた後、眠りに落ちた青年を眺める。


しっとりと湿り気を帯びた肌を撫ぜればゆるやかに押し返してくる手応え。
均整の取れた筋肉は、まだ頬の輪郭に幼さが残るこいつが人一倍努力した証だ。

しなやかで弾力を湛えた背をなぞるように指で辿る。

腕に黒々と彫られた自己主張と、それをも些末と思わせるほど大きく誇示するように背中に陣取る、かの男を示すマーク。
どれだけ自分が貪っても搾取したとしても、きっとこいつは、この瑞々しい細胞の一つ一つに至るまであの男に心酔しているのだ。
それを少しだけ悔しくも思うし、そう簡単に手に入るものならばこんなに執着もしないだろうとも思う。

そんなことを考えてから、いや、違うな、と思いなおした。

くるくると好き勝手跳ねる青年の黒い癖ッ毛に指を絡ませながら、鼻梁をなぞる。
手に入らないから欲しいわけでは無いし、きっとすぐ傍に居たとしても、自分は躍起になってこの青年を欲するだろう。
それは、価値どうこうと言えるものではないし、はっきりと理由を述べれる類のものではない。


(それでも)


それでも、やはり手の中に収めておきたいと願うのは、これは海賊の性なのでしょうか。


黒檀の猫ッ毛に鼻先を埋める。
汗と潮の匂いに混じって鼻腔を擽る香りは、干草の匂いにも似て。


(日向の匂い、だ)


眩しいくらいの若さと光とを抱えながらも、嗚呼、どうしてこの子供は己の日向の匂いを厭うのでしょう。
両の手が血に塗れたというなら、己を血腥いと思うなら、それはお前自身に流るる血潮であるというのに。


するする、するする。
髪を梳く。
どこかの御伽噺のように髪を梳いたら全て、こいつを縛る鎖全てを、一切を忘れてしまったら良いのに。
そんなことはできやしないけど、せめて一時の安寧を与えるために、ゆっくりと髪を梳いた。

ぴくり、ぴくりと瞼が震えて。
小さく鼻を鳴らして、もぞもぞと身を捩る。

そんな当たり前の、でも年相応な動作に酷く安心して、そして同時に心乱されたりもして。
自分より一回り近く幼い子供の挙動に振り回されてる自分が酷く滑稽に思えたりもして。

(四皇も形無しだなあ)

それでもまあいいか、と思ってしまう自分が居るなんて、こんなことを当方の副船長に言ったならば呆れられるに違いない。
いや、勘の良い彼ならもうわかっているだろう、自分が柄にも無く溺れてるなんてこと。


大酒食らって潰れても良いし、大飯食らって寝こけても良い。
笑いたいならとびきり寒い親父ギャグでもかましてやるし、泣きたいのなら足腰立たなくなるまで壊してやるから。
だから。


(自分を、生を否定することだけは、するな)


絡めた指先が頭皮を掠って。
またぴくり、小さく腕の中で青年が震えた。





わらってもいいよ、ないたっていいよ、あいしても、いいよ。



それが俺達にとってどれだけ重い選択であろうとも。









(とびっきりへヴィな、特大級の愛の囁き)














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