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パッシオーネ[赤炎/OP]R-15

泥沼のような恋に没む。











酒の勢いだとか、あとは、ほんの気まぐれだった、だとか。
言い訳はいくらでも思いつくのだけれど、浮かんでは消えるだけで言葉にはならなくて。


(逃げられない)


否、逃げられない訳ではない。
ただ逃げるのを良しとしない己が居るだけ。
ああ、これも違うか。
このままで居たいと思う、自分が居るだけ。





視界を埋めるのは鮮やかに眼を付く、赤。
腕を伸ばしてその赤に触れれば、眼前の男が、小さく笑った。

「随分と余裕じゃねえか?」
「ん、っう、」

ずくり、体の中を深く抉られて、きつく噛んだ唇の隙間から漏れる俺の呻き。

必死に堪えてる今の自分の姿を想像して、みっともないと思うのだけど、好き放題腰を揺さぶられてる所為でもう頭もうまく回らなくて、すでに自分の意思でどうこうできるレベルでは無くて。
自分の手の甲に歯を立てて、少しでも情けない声を上げないようにするので精一杯。
そんな自分がやっぱり情けなくて、なんでこんなことに、とかなんとか思ってみたりもして。

「考え事たァ、」
「ぎっ、ひ」

ぐいって一際強く抱き込まれて、思わず歯を食いしばったら、ぷつり、犬歯が思い切り食い込んだ手の甲の皮膚が少し裂けて。
鮮烈な痛みと頭の芯がぐらぐらするくらいの快楽にもう何も考えられなくなってきて。
なんで俺、いい年した男なのに、とか、恥ずかしさとか、あとは情けないさとか、そんなものは全部うやむやに融けて行ってしまって、ただただ快楽を追うことしか出来なくて。

「ん、んんっ」
「エース」

しな垂れるように体重が掛かって、シャンクスは俺の首元に鼻先を埋めながら、低い声で俺の名前を囁いた。
ざわり、肌が粟立つ感触がして、身震いする。
怖いと、思った。
それはこの男が、では無くて。


(駄目かも)


「・・・エース」
「ふ、う、」

名前を呼ばれてしまうと、どうしようもなく体が震える己が。
ともすると、より深く溺れてしまいそうで、それが怖かった。
溺れて、抜けられなくなることが怖い。


(あれ、どうやるんだっけな)


利口な立ち居振る舞いは。

以前はもう少し、上手かった筈なのに。
人に好かれるジョーシキジンの真似事、もう少し得意だった筈なのに。


口を覆っていた手を引き剥がされて、噛み付くように口付けられて。
飽和寸前の妙に鼻に付く俺のみっともない声は、全部シャンクスの口の中だ。

幾度も激しく俺の中を抉られて、ぐずぐずと内臓まで引き摺り出されそうな気持ち悪さと、指先まで電流が走るみたいな強すぎる快楽が駆け抜ける。
それだけでもう可笑しくなってしまいそうなのに、どうやら目の前の男はそれだけでは許してくれないらしい。

「やめ、ぐ、うあっ」
「ほら、若ぇんだから、もちっと頑張れよ」

深く貫かれている上に俺自身も一緒に扱かれて、ぶっ飛びそうな意識を繋ぎとめるのに必死で。
なんだかもう前後左右、わけわかんなくなってきて。

「う、あっ、わかん、ねェッ」

理性とかそんなんじゃなくて、俺と為るものが、俺っていうものを形成してる、プライドとか、道徳だとか、なんだかそんなものが、弾け飛んで行ってしまうような、足元の覚束ない真っ白な空間に投げ出されるような、そんな、酷く心許ない心地になって。
きっと今の俺はものすごくかっこわるい顔をしているのに違いない。
違いないのに、顔を背けることすらできずに、シャンクスの首にしがみ付いてひんひん喚くしか出来ない。
やっぱりそんな自分が情けなくて軽く死んでしまいたくもなるのだけど、ちかちかと目の前に星が飛ぶような快楽の波に流されて。

流されて、流れる、意識が、思考が、おれ、が、



「溺れちまえ」




その言葉を合図にしたみたいに、限界まで溜め込んだ俺の欲望は弾けて果てて、同時に、ずるり、視界もホワイトアウト、ばいばい、現世。
意識を飛ばす間際に、どくりと俺の中のものが脈打った気がした。










「う、ん?」

ちかちかと瞼の裏で点滅する白い光。
眩しさに眼を開けると、それはゆらゆら揺れるカーテンの隙間からのぞく陽の光で。
陽の光・・・?

「あー・・・朝・・・?」
「よォ、起きたか」

なんたる不覚。
俺は情けなくも、あの後思いっきり意識を飛ばして眠りこけたらしい。

「・・・ありがとう」

体が清められているのを見て、シャンクスがやってくれたんだろうな、と思い、一応感謝の意を示すが、元はと言えば原因はこいつにあるのだ。

「なぁエース」
「・・・なんだよ」

にやにやと嫌な笑みを貼り付けながら俺に水を手渡してくるシャンクス。
その水を一気に飲み干したら、少し頭の芯がすーっとした。

ぎしり。
ベッドの端に、片腕を付いて(と言っても片腕しか無いけど)、シャンクスが身を乗り出してきた。

「!?」

顔を近づけて来た、と思ったら、がりり、耳朶に歯を立てられて、声にならない悲鳴が漏れて。

「何す・・!」
「意識飛ばす程、好かったか?」

低い声で耳元に吹き込んでくるもんだから、またざわり、肌が粟立って、ああもう、ほんとに。

「死ねおっさん、変態」

俺は説得力の欠片も無い真っ赤な顔で、苦し紛れの悪態をつくしか出来なくて。




最初は、ただの、遊び、それだけ。
それだけだと、思ってたのに。

(もう駄目、かも)

言い訳なんて役立たずなくらいに、どうしようもなく欲してるのは、俺で。



ずるずる、ずるずる、底無し沼のような、恋慕に溺れて。














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