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zekku

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大人の領分[赤炎/OP]

現パロ赤炎







ちかちかと瞼の裏で赤い光が揺らいで。
その眩しさに、シャンクスはうとうとと揺蕩っていた意識を浮上させた。

ゆるり、目を開ければ、目を射るような日差しだ。


一体今が、朝なのか、あるいは昼であるのか。
時計に手を伸ばすのもどうにも億劫で、緩慢な動作で横に体をずらす。

視線の先にはぐしゃぐしゃのまま放置されたシーツと乱雑に脱ぎ捨てられた寝巻きしか無かったから、きっと同居人はもう起き出しているのだろう。
人が抜け出たそのままの形になっているタオルケットを見て、なんだか抜け殻のように見えて可笑しくなった。


(抜け殻、ね)


くるくると普段器用に立ち回る、同居人のことを思い出す。
快活でいい青年だ。
誰にでも好かれる、好青年。

ただ。
上手に立ち回り生きる彼は。
彼はまだ、大人に成りきれない、子供だとも思う。



二日酔いの頭を押さえながら、水でも飲もうかとキッチンに向かう。
蛇口を捻りながら一回り近く年下の青年の姿を部屋の中に探すも見当たらない。

今日は日曜である筈だが、はて、出掛ける予定があるとかなんとか言っていただろうか。
昨日の記憶を辿ってみたものの、二日酔いがキーンと響いただけだった。
ひらひらと揺れるカーテンの隙間から差し込む光の強さで、現在の時刻がそろそろ南中に差し掛かるころだという事を知る。

「寝すぎた、か?」

ごきり、首の骨を鳴らしながら、今日は別段、寝すぎて困ることも無いのだけれど、と一人ごちて。
青年はきっと弟のところか、彼の敬愛する巨漢の所にでも行っているのだろうと勝手に結論付けて。
もう一度寝直してやろうかと寝室へ足を向けた時、ふいに見慣れた黒髪が視界の端にちらついた。

出払っていると思われた同居人はどうやらベランダに出ていたらしい。


癖のある黒い髪がベランダの左右を行ったり来たりしている。
薄いグレーのカーテンを開け、ついでに窓も開けた。
少々建て付けの悪い窓を開ければ、白い光が目を指し痛いくらいに眩しい。

「お、ようやく起きたか?」

呆れ半分、でも快活に笑いながら、白いシーツを広げたエースが笑った。



「天気良かったからさ、洗濯物溜まってたし」
「おー、そーか」

若い男にしてはなんとも手際良く洗濯物を物干し竿に干していく背中をぼんやり見ながら、やはり出来すぎた子供であると思う。
出来すぎている。

天然だったり大食らいだったり少々間が抜けていたり、超が付くお人よしだったり。
粗野で頼りの無い餓鬼かと思ったものだが、長く接していると、どうもそうではないらしいこともわかってきた。

一人で生きていけるだけの生活力や処世術は、人一倍心得ているのだ。
幸か不幸か、どうやらこの餓鬼の周囲の人間はコイツの作り笑いに気が付かないらしい。

(いや、それこそ弟と件のあの男は気付いているのだろうな)

兄貴も兄貴で弟にべったりだが、負けないくらい兄馬鹿な弟は、兄が妙な気を回すのをいつも嫌がっている。
それと、エースが敬服して止まない、あの男もである。

この器用な青年が、器用になった理由。
弟が居るというのも大きいのだろうが、長く近しい大人が居なかったのだとも聞く。
両親は産まれた時に亡くなっているらしい。

「しかしアンタ、この時間までよく寝てたな」
「おお、まぁ」
「もしかして、起こした方が良かったのか?」

気持ちよさそうに寝てたから、と、靴下を纏めて洗濯バサミに挟んでいく。
馬鹿なように見えて、実際はくるくる色んなことに思いを巡らせているんだろう。

「うし、終わり」

清々しい笑顔で干し終わった洗濯物を眺め、エースはベランダの柵に手を掛けた。
シャンクスは何をするでもなく、その横顔を眺める。
天気は良くとも季節はまだ冬。
きん、と冷たい、乾いた空気が、重たい頭に冴え渡るようだった。


「なぁ、エース」

ぐしゃり、猫ッ毛を撫でれば、案の定、冷気が指先に絡んだ。

「んー?」

当の本人は何処吹く風だが、基本的にこの青年は己のことには無頓着なのだ。

「昼飯、何食いたい?」
「なんでもいい」

俺なんでも好きだし、とへらり笑うエースに、なんだか少し寂しくもなる。
聞き分けが良くて礼儀正しいのも結構。
我儘な餓鬼は嫌いだ。
嫌いだが、しかし。
こうも物分りがいいと、なんだか大人として申し訳ないような気さえしてくるのだ。

「好きなもん言えよ、おごりだから」
「何言ってんだ、いいよ、俺適当に作るか?」
「あのなぁ・・」

自分が大食いだからと自粛でもしているのだろうか。
だったらば余計に迷惑であるのに。


「休日くらい、大人ぶらせろよ」
「なんだそりゃ」

冬の匂いが染み込んだ上着を引っ張って、項に口付ける。

「偶には甘えちゃってもバチは当たんねーよ、ほら」
「何、まだ酔い醒めてねーのアンタ」
「つれねえなぁ」

手触りのいい髪をまたくしゃくしゃと撫でて、冷えた体に腕を回して。
やんわりとしか押し返して来ないのを良い事に、抱きしめて。

「離せよ、飯、作るからさ」
「だーかーらー、おごるって」
「いいって別に」
「俺がおごりたいんだって」

しょうがねえなぁ、って言う顔は、呆れたようで、でも少し綻んで見えて。
強引にでも甘やかさないと甘え方を知らない子供には、やはり少しくらい無理に甘えさせてやらなくてはいけないのではないかと思ったりして。

「でもおごりは悪いって、割り勘とか」
「こういうときは大人しくおごられとくもんだぜ」

大人の経済力を舐めるんじゃありません、と言えば、観念したのか大人しくなった。
それでもまだうー、と唸っていたから。

「ならお代は、体で払ってもらっちゃおうかなー」
「変態」

泣いてしまうほどに愛してやると囁けば、死ね、と返された。


(愛を知らない子供に、めいっぱいの無償、とも言わないけど愛を)














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