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出ずるは愛ほし[赤炎/OP]

エースくん
のお誕生日をお祝いする話(2010.1.1)








ざわり、ざわり。
胸の内側で蠢くものが在る。

それは水平線から頭を擡げそうな太陽が空を赤々と焦がす朝焼けが起こす高揚にも似た胸騒ぎであるのか、それとも、今日この日という、特別な意味を持つ日だからこその、日常とは違う違和感を持った思いが己れの内に有るからか。

誕生日。
俺が生まれた日。

特別は特別なのだけど、期待ではなく違和感、と著したのには理由があった。


己れに流るる血潮の半分は、忌むべき大悪党の血。
海賊として名をあげている以上は自分自身だってその悪党と何も変わりはしないのだけれど。
業であるのだと、思う。
大いなる悪党の荷。
多くの罪咎と流れた鮮血と断末魔が凝った血潮が流れる自分は、また多くの罪咎を背負いながら、忌むべき存在として生きるのであろう。
否。
罪の権化たる自分が今日まで生かされている事がもうおかしいのかも知れない。


徐々に昇り行く朝日をぼんやりと目で追いながら、エースは一人、取り留めもなく思考を巡らせていた。


自分は果たして、生まれて来ても良かったのか。
生まれてきて、生きていて良かったのか。
今日まで生き延びていて良かったものだったのか。

(もう何度目だろうな)
この問いを立てるのは。

ガープのじじいは、生きてみれば判ると言った。
遮二無二20年、なんとか生きてみた。
これまで多くを失い、またその分だけ多くを奪った。
大切なものもできて、誇りも、手に入れた。
この命をも賭すべき、こんな誰からも忌避された命を賭すことを許してくれる、俺の魂の誇り。


朝日はもう3分の1ほどまで顏を出していた。
薄い灰色の膜が張ったようだった空は、燃えるように赤い。
帯のように方方に伸びた雲がじりじりと色を変えていく。

炎は、死んだ生命の輝きだ。
否、生命が失われる時の輝きだ。もしかすると断末魔の光なのかもしれない。

小さくため息をつく。
目を閉じ、開く。

今日まで20年生きて、結局は、まだ、答えは出ていないのであった。
だから毎年誕生日になると、生を受けたことを喜ぶでもなく、嘆くでもなく、胸の内に何か燻ったまま、違和感を持つのである。

(まだまだ生きる年数が足りないってのか、じじい。)
一人ごちて、また溜め息。

一日が、否、新たな一日だけではない。
新たな年がまた巡る。

机上に放ってあったテンガロンを手に取り、エースは船室を後にした。




海賊たるもの、何かとつけて宴を開きたがるのが常であって。
もちろんその例に漏れず、最強と詠われる白ひげ海賊団クルーも祭好きの酒豪揃いなのである。

そんなクルー達が新年というイベント性を持ったこの日を放っておく筈もなく、また、敵襲も無く全くもって平和である為に、朝からモビーディックの船内の至るところで酒宴が繰り広げられていた。


「よぉ、飲んでるか」
「サッチ、」

甲板で海に背を向け、まだ早朝の違和感の残滓をぐずぐずと引きずりながらビールを煽っていたら、ウイスキーのマグナムボトルを片手にサッチが絡んで来た。

「シケた面だね~」
「アンタはご機嫌だな」

珍しいことも有るものだと、サッチは笑う。

「お祭り大好きなお前が宴の中心に居ないなんて」
「・・俺だってたまには静かに飲みたいの」
「へぇ」

さわさわと温い風が吹く。
潮を含んだ風は塩辛い。

「新しい年明けくらい景気良く行こうぜ?」
「まだ午前中だけどな」
「んなこた関係ねぇよ」

パーっと楽しもうぜ?とニヤニヤ笑うサッチに背を押され、がやがやと賑やかな喧騒の真っ只中に押し込まれて。そりゃあ俺とてもちろんいっぱしの海の男であるので酒は好きなのだが、今日だけは、酔う気にも騒ぐ気にもなれないと言うのに。

「さっきから酒が進んでねぇよい」
「マルコ」

らしくもねぇ、と口角を吊り上げるマルコに、一体普段から俺はどんなイメージを抱かれているんだろうとうんざりしながら、グラスを揺らして応じた。

「誰にでも有るだろ?」
「何が」
「・・しんみりしたい時?」

「無ぇ頭でごちゃごちゃ考えても無駄だよい」

にやり、マルコが笑う。

すっかり見透かされているなぁと思いながら乾いた苦笑いで返せば、意味深な笑みを残してマルコは何処かに行ってしまった。

チーズを一片摘みながらちびりちびりと酒を喉に流し込む。
なんだかんだでもう日は南中に差し掛かっている。

(もう昼、か)

ぐだぐだ酔っ払って話を振ってくるクルーをのらりくらりかわしながら、知らず知らずにボトルを空けていたらしい。
じわり、確実に酔いが体内に這い巡り始めている。

このモヤモヤ中途半端な気持もいっそ酒に呑まれて飛ばしてしまおうか。

強めのブランデーのボトルに手を伸ばし、引き寄せようとした、時。


「おーい、エース!」

名を呼ばれ、振り向いた刹那。
べしゃり。
ぬるりとした柔らかな感触と甘ったるい香りに、視界はホワイトアウト。

顏にまとわりつく柔らかなものを拭うと、ニヤニヤとしてやったり、と言ったような顔をしたサッチ、とマルコと巻き込まれたであろうジョズとあとその他クルー達。
後ろでひゅー!だの叫んでいるのは3割くらい2番隊の人間だ。


「エース」


『ハッピーバースディ!』


そこで漸くぶつけられたものがケーキであると気付いた俺は、一瞬、呆気に取られて反応を返すことができなかった。


気が付けば、周囲に居囲に居た酔っ払いクルーも、皆こちらを囲んで囃し立てている。

じわじわ、じわじわ、酔ったせいじゃ無くて、内側から熱いものがせり上がって来て。
顔を上げていられずに、俯く。

「お、どうした?」

からかうようなサッチの声にも、ただただ、込み上げるものを押し込めるのに必死で。
温かいと。
思って。

「クリームが鼻にっ、入ったんだよっ」

顔を上げればカッコ悪く泣きそうだったから俯いたまま、それでも鼻声の情けない言い訳ではきっと皆気付いてしまっているだろう。
「おめでとう、エース」

この温かい場所なら。
俺はもしかするとこの場所でなら、生きていてもいいのかもしれないと、うっかり自惚れてしまいそうで。

ぼたぼたと甘いクリームを溶かして流れるしょっぱさに、やっぱり顔を上げることができなかった。




さわり。
いささか酒くさい潮風が吹く。
朝焼けを見送った太陽は、もう水平線に着水しようとしていた。


まだまだ続く酒宴を抜け出して、でもそれは朝方のような憂鬱なものでは無くて、確かな高揚を持っての、酔い醒ましの休憩。

徐々に冷えてきた風にクセっ毛を遊ばせながら、再び赤々と色付き始めた空と海を眺める。
明け方のざわざわした気持が嘘のように晴れている自分はつくづく現金な男だと思いながらも、ゆるむ頬は止められない。

ざわり、不安や悪寒からではない胸騒ぎがして、でもなんとなく振り向くのは億劫で。
背後から近付く影を甘受すれば、ふわり、空気に酒気が混じる。

あまりに見知った、それでいてこの船にそぐわない気配に、まさか、と頬が引き攣る。
いやまさか、だって、アイツが、この船にいる筈は無い、のに。

「よお」

穏やかな低い声。
ひしひしと辺りの空気を侵食する存在感。
視界を霞める、夕陽よりも深い、赤。


「なんで、アンタ・・」


へらり、まるで何事も無いかのように、4皇の一人である男が自然体でモビーディックの甲板に立っていた。

「エース」
「シャン、クス」

仮にも敵船であることを理解しているのだろうか。

「・・オヤジに用か?」
「いや」

かつり、かつり、ゆっくりと距離を詰めてくる赤髪。

「お前に会いに来たんだ」
ゆるり、酒気が強くなって。
気が付いたら、酒気に包まれていて。
片腕なのにどうしてこんなに、と思うほど強い力できつく抱きすくめられて。
いとも簡単に捕まった上に逃げられず、俺だってちゃんと鍛えているのに、と少し嫉妬したり。

「エース」

さわさわと晒した肌に髪がかかり擽ったい。

「エース、生まれて来てくれて、有り難う」

少し酒焼けしてかすれた優しい声が頭上から降って来て。
思わずシャンクスの黒外套を掴む指に力が籠って。

「生きててくれて、有り難う。これまでも、これからも、だ」

額に落とされた乾いた唇の感触にもう歯止めが効かなくて。
さっきは必死で隠そうとした涙が、みっともなくボロボロ溢れた。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃな俺は、シャンクスのシャツを汚してしまうんじゃないかと少し心配したけど、シャンクスが何も言わずにきつく背を抱いてくれたから、俺もその背にしがみついた。

その強い腕が俺をこの世界に引き留めてくれるのなら、俺はこの愚かしい命でさえも、惜しんで良いのだろうかと。

ぐい、といささか荒っぽく押し付けられた薄い唇に、今日くらいは甘えてもいよな、という思いも込めて応じる。


20年生きた。
自分の生きる意義はまだまだ見出せないけれど、この温かい場所で、温かいクルーの元で、そしてこの人の腕の中ならば、生きたいと、そう思えた。
生まれて始めて、誕生日に違和感ではない確かな喜びを感じることができた。


ひりひりと痛いほどに胸を焦がす喜びにむせびながら、俺はただきつく、少し猫背なたくましい背に腕を絡めた。





(エース、生まれて来てくれて、本当に有り難う)















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